【桐生人】オリジナルを追求すること

この記事は、ココロ日和2019年冬号に掲載されたものです。

桐生人をたずねて 第8回

 桐生市のお店などで、可愛くおかしな動物たちの絵を見かける方も多いと思います。
 今回は、絵描き、映像作家、音楽家と多くの顔を持つ、唐澤龍彦さんにお話を伺いました。

絵を描くことに至った経緯を教えてください。

 グラフィックデザインに少し興味がありましたが、演出家志望だった父の勧めもあって日大芸術学部の演劇学科で舞台美術を専攻しました。舞台はたくさんの役割が融合して1つのチームです。大道具を担当し、チームの中で動いていましたが、当時はひとりでできる表現活動をやりたいという思いが強くなっていました。
 大学の勉強以外では、バンド活動や描画などの活動をしていました。大学を卒業し、地元に戻り家業を継ぎましたが、アートや音楽が好きでその活動はずっと続けていました。小学校の図工の教科書に載っていたジャン・ミッシェル・フォロンの絵のファンになったり、絵の上手な友達をいいなあと思ったり、きっかけはいろいろありました。

音楽活動もされていたのですね?

 学生の頃はロックを演奏していましたが、卒業後だいぶ経ってから知人に誘われて元々興味のあったジャズピアノを始めました。
それから人前でコンスタントに演奏するようになりました。ジャズはコミュニケーションをとりながら作っていく音楽なので、そういう影響もあってか、学生の頃にはあまりなかった協調性が出てきたと思います。

桐生のお店で、唐澤さんの動物の絵をよくお見かけします。動物を描く理由は何ですか?

 ジャズ仲間と演奏させて頂いたお店で、自分が描いた絵を置いてもらうようになりました。最初はシンガーの ポートレートを描いて飾ってもらっていましたが、自分の物という感覚がありませんでした。
 その後Instagramでも自分の描いた絵や映像を載せるようになり、人の目に触れることが増えていったように思います。
 性別や年齢などの表現を避けようと思った結果、動物にたどり着きました。人だとどうってことない動作を、動物がしていたら・・・ちょっと不思議じゃないですか?日常の不思議なこと、不自然なこと、極端でなく『ちょっとしたズレ』を絵で表現したかったんです。

「ちょっとしたズレ」を大切にしているんですね。

 コミカルな物が欲しいと思いました。お笑いやコメディにおけるパンチラインのようなはっきりしたオチではなく、一瞬何が起きたか解らなかったけど後で思い出しニヤッとしてしまうような小さいもの、アメリカのコメディの中でもオフビートと呼ばれる作品の脱力感のようなおもしろいものです。
人は人生の中で、楽しいこと・嫌なことの繰り返しですが、この中間にちょっと笑ってしまおう、辛くてもちょっと笑ってしまおう、そういうものを表現したいと思いました。

本業のお仕事以外でここまで真剣に絵を描くことに向き合っていて驚きます。

 あるアーティストの方とお話をしていてプロではない自分の立ち位置について触れたときに、パラレルキャ リアという言葉を知りました。
仕事以外の自分、ボランティアや趣味、自分の持っている知識が、例えば何かの役に立ち一種の社会貢献にな るようなことに興味を持っています。自分の絵や音楽、映像が、社会貢献になっているかはわかりませんが、街にアートや音楽が溢れていることは、桐生地区の文化的な底上げになっているのではないかと思います。自分がスキルを上げていい絵を描くことが、いつかそこに繋がっていくのではないかと思います。

抱負をお聞かせください。

 情報が沢山溢れているこの時代には難しいことかもしれませんが、オリジナルを追求することを大事にしたいと思っています。人が作らなかったものを作りたい、人と違うことをやりたい、そういう追求心があります。これがとても楽しいです。


桐生のお店のロゴをデザインしたり、CDジャケットやストールのイラストのデザイン依頼があるなど、多才で器用な唐澤さん。お仕事だけでなく作家活動や演奏活動に対し、とても真剣に向き合っているお姿がストイックでエネルギッシュでした。

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