エルダー9月号に掲載されました

独自の休暇や意識改革の教育などにより仕事を続けたい従業員の思いに応える

「心と心をつなぐ」という方針のもと介護サービス事業を展開

群馬県桐生市に本社を置く有限会社COCO-LOは2005(平成17)年、雅樂川陽子代表取締役社長が訪問看護ステーションを主な事業として起業し、その後順調に事業を拡大。いまでは、通所介護、居宅介護支援、フィットネス事業なども手がけている。
「心と心をつなぐ」という思いを社名に冠した同社は、利用者とその家族はもちろん、自社にかかわるあらゆる人の心を大切にする方針。「従業員一人ひとりにとっても、自分らしくいつまでも輝ける場所であるように」と、ワーク・ライフ・バランスやキャリア支援の取組みを充実させてきた。従業員100人ほどの中小企業ながら、働き方改革やダイバーシティ推進などに関して、群馬県、内閣府、厚生労働省、経済産業省、中小企業庁などから数多くの賞を受賞しているので、ご存じの方も多いだろう。

人材の確保を目的として育児との両立支援からスタート

いまでこそ全国的に知られるようになった同社だが、創業当初は知名度もなく、スタッフの確保に苦労したという。そのことが、同社が仕事と家庭生活の両立支援に取り組むきっかけとなった。「当時はまだ、家庭で女性だけがになう役割が多く、家事や育児はもちろん、介護も女性が行うのがあたり前という時代でした。そして、『家庭が成り立たないなら、女性が働くのはむずかしい』という考え方が一般的でした」と雅樂川社長はふり返る。
初めに取り組んだのは、育児との両立支援だ。看護師資格を持つ人材を必要としていた同社が注目したのが、子育て中の看護師だった。「専門職である看護師は転職が比較的容易なので、子育て中は仕事を辞める人が多い」という話を聞いた雅樂川社長は、実際に子育て中の看護師に会い、どんな形であれば働きたいかヒアリングした。すると、「家庭を犠牲にしてまで働く気はないが、子どもが保育園や小学校に行っている間であれば働ける」という答えが返ってきた。そこで、その時間帯だけ働ける柔軟な勤務形態を設けた。

すると今度は、「子どもが熱を出したら、休みたい」という要望があがってきた。いつ熱が出るかは予測できないので、急に休むことになる。それが可能になるようシフトや人数を見直し、対応できる体制をつくった。
その次に取り組んだのは、特別有給休暇の充実。スタッフにアンケート調査を実施したところ、子どもの病気や行事などで年次有給休暇が不足し欠勤する人が多いことがわかり、保育参観休暇、授業参観休暇、パパのための産休など、独自の特別有給休暇を導入した。子どもの預け先に困っている人のために、事業所内託児室も設けた。

「働き続けたい」、「介護もしたい」という声を受けて取組みを開始

介護との両立支援に取り組み始めたのも早い。最初に話が出たのは創業後3~4年目だった。あるスタッフが、「仕事は辞めたくないけど、親の介護もしたい。どうしたらよいですか?」と涙ながらに訴えてきた。雅樂川社長は、不安に押しつぶされそうなスタッフの心に寄り添いながら、勤務時間や休暇制度を整えたり、デイサービスの利用や家族との負担などについてアドバイスして「働き続けたい」、「介護もしたい」という本人の思いに応えていった。
介護と育児の違いに、介護はいつまで続くかわからないということがある。いつ通常勤務に戻れるか、いつまで支援が必要かわからないため、法定以上の支援に二の足を踏む企業もあるだろう。しかし、雅樂川社長の考えは違う。
「いつまで続くかわからないからこそ、自分の生活は大事にしたほうがよいのです。全身全霊をかけて介護をしていると、どこかで息切れしてしまいます。また、かつては『仕事のためなら生活を犠牲にしてあたり前』、『仕事だから仕方ない』という考え方が主流でしたが、私は『仕事だから』というのはそこまで許される言葉ではないと思います。自分にとって生活が優先されるべきものであれば、『介護があるから』、『育児だから』、あるいは『行きたいところがあるから』と堂々といっていい。むしろそこをベースにするほうが、人間が生きていくうえで自然ではないでしょうか」

独自の特別休暇―初期の準備や病院のつき添い、息抜きの休暇も

同社の取組みのなかで特にユニークなのが、独自の特別有給休暇である。雅樂川社長のコメントとともに紹介しよう。
・「介護すぐ取って休暇」
「一緒に日常を送っていた家族が急に入院すると、それまでと同じ時間軸では動けなくなります。病気の心配、病院とのやり取り、家庭内のルーティンワークの変更の三つが必ず起きます。余裕がないなかで仕事をしてもミスが増えますので、とりあえず1週間休んでこの三つを整えてもらいます」
・「介護定期受診付添休暇」
「群馬県の特性もあるかもしれませんが、高齢の家族などが病院に行く際に、自動車で送り迎えをする必要があり、スタッフの要望を受けて特別休暇を設けました。受診の頻度は人によって異なりますので、『月1回まで』といった上限回数は定めていません」
・「介護楽しんで休暇」
「ずっと介護をしていると疲れますし、たまには遊びたくなり、自分の時間がほしくなるのが普通だと思います。そこで、月1回まで介護している家族を会社で預かり、自分の時間に充ててもらうようにしました。自分が働く会社なので融通も利きます」
なお、「介護すぐ取って休暇」であれば「今後、介護をする可能性があります」、「介護定期受診付添休暇」であれば「こういう頻度で定期受診します」というように、事前に申請してもらうことで、会社としてもある程度心づもりができるようにしている。

意識改革の教育―スケジュールや自分の思い、役割を事前に認識させる

教育に力を入れているのも特徴だ。社内勉強会では、独自のシートを作成し、自分の時間を確保すること、あらかじめ思いや役割を確認しておくことの重要性を伝えている。
・「介護時間割表」
「『デイサービスを利用するから大丈夫』などと思ってスケジュールを立てずに介護を始めると、自分の時間が置き去りになり、結果として介護に時間を合わせなければならなくなり、ストレスを抱えることになります。この時間割表では、各曜日の0~24時のマスに、まず『私』の時間(仕事や習い事などの予定)を入れます。7時に出勤し19時に帰宅するのであれば、その時間を先に確保する。『私』一人ではなく家族と一緒に介護するなら、その人たちの予定も入れる。そして、だれもいない時間帯について、『〇~〇時はデイサービスに頼もう』というように設計しておきます。緊急時に頼める場所も用意しておきます。このように、まず自分の時間を優先して1週間のスケジュールを立てると、無理がなくなります」
・「思いの確認シート」
「よくあるのが、家族間の『思い』の違いです。介護することになったとき、どんな介護をしたいか、仕事をどうしたいかなどを事前に確認しておくことが大切です。仕事を続けたいのであればそれはなぜか。休職したいのであればそれはなぜか。『だって家族だから』では、家族のせいにしがちになります。また、介護をするにあたって不安なことも列挙してもらいます。明確にすると、アクションを考えられるようになります。同時に、介護するにあたって楽しみなことも確認します。継続するには、絶対に楽しみが必要です。例えば、『ついでにヘルパーの資格を取ろう』というのは、楽しみのよい例です。介護の経験はその後のキャリアや生き方にも影響しますので、それを自覚してほしくてこのシートをつくりました」
・「役割確認シート」
「家族や親せきがかかわるなどいくつかの対応のパターンが考えられますので、パターン分けをして役割を確認します。例えば、介護サービスの相談役は、ケアマネ―シャー1人なのか、近所の人や民生委員、ほかの家族がいるのか。お金の相談役、日常の介護の相談役、自分時間はいつ取れるかといったことも、事前に確認しておくと慌てずに済みます。毎日の食事やトイレの世話も、長く続くとたいへんですので、認識しておく必要があります。『何とかなる』と考えている人が多いですが、『何とかなる』でがんばれるのは3日程度。4日目には『いつまで続くの?』となります。また、大事なのが介護にかかる費用の認識です。『私は、介護が必要になったら施設に入れてもらうからいいんだよ』といいながら、施設に入るのにいくらかかるか把握してない人も多いものです」ここまで確認しておくと、介護と仕事をうまく両立できる可能性が高まるという。

従業員の困りごとに全力で向き合いトライ・アンド・エラーを継続

ここまで見てきたように、同社は、「働いてもらうにはどうすればよいか」という視点で課題になっていることに一つずつ手を打ち、両立しやすい環境を整えてきた。中小企業の場合、「〇〇さんはこうしていい」、「△△さんはこうしよう」というように個別対応することも考えられるが、そうすると不公平感が生じるので、同社では会社の仕組みとして制度や施策を整備してきた。
同社が取り組み始めたころは、世の中ではまだそこまで両立支援に前向きな企業は多くなかったが、「私は作業療法士としてリハビリの仕事をしていました。リハビリの対象の方たちは、手が思うように動かない、一人でお風呂に入れないなど、いろいろな『できない』があります。それに対して、『では、どうしたらよいか』と考えるのがリハビリのプログラムの一つです。
経営においても、それと同じ考え方で、『働いてくれる人が困っている。じゃあ、どうしよう』と考えて取り組んできました。私のなかではすごくシンプルなんです。会社の運営においては、働く人の安全性が大事だと思っています。その人が生活の中で抱えた課題は、会社ができる範囲のことであればなるべく早い段階で解消し、心理的に不安定な状態から安全地帯に持っていってあげるべきです」と雅樂川社長は語る。そのように積極的に取り組んできたことで、よい人材が集まり、従業員のモチベーションや定着率も向上し、会社の成長にも結びついたのだろう。ちなみに、初めに雅樂川社長に介護について相談してきたスタッフは、10年ほど仕事と介護の両立を続け、いまも同社で活き活きと働いている。
もちろん、これまでの取組みがすべてうまくいったわけではない。例えば、介護をしている人が自分の時間を持てるようにと、雅樂川社長の発案で、「介護楽しんで休暇」以外にも特別休暇を導入したことがある。ところが、「休むと現場がわからなくなるので、来られるときは来たい」という反応が多く、結果的に従業員の了解を得て廃止した。また、当初は、育児や介護をしていない従業員たちから、「どうして私たちばかりに負担がくるのか」と不満の声があがった。「では、どうすればよい?」と聞くと、「旅行に行くために休みがほしい」というので、旅行休暇や費用補助を設けた。その後も、従業員の要望を受けてさまざまな制度を設けた。ただ、そうやって設けた制度のなかにも、あまり使われず、廃止されたものがある。
しかし、雅樂川社長は、こうしたトライ・アンド・エラーは無駄なことではないととらえている。「従業員が困っていることに会社が全力で向き合う姿勢が大事なんです。従業員からの声を無視しない、いったんは受けとめる会社であると示すことを心がけています」という。トライ・アンド・エラーをくり返し、よりよい形で模索してきた結果が同社の成長につながっているのだ。
雅樂川社長は、これから介護との両立支援策を充実させていきたい企業へのアドバイスとして、以下の3点をあげる。
・従業員教育を行い、スケジュールや思い、役割を認識させる。
・従業員とのコミュニケーションを取り、何に困っているかを経営者が聞く(直接聞くのがむずかしければアンケートでも可)
・従業員の声を聞いたら、実行しない場合も含め、まずは受けとめたことを伝える
雅樂川社長は、介護の考え方やお役立ち情報をYouTubeで発信しているほか、他社の社員教育の講師も積極的に引き受けている。また、他社の活動を支援するためにコンサルティング事業を立ち上げた。「自分のところだけががんばっていても日本の働く環境は変わりませんので、社会全体がよくなるように、ヒントを伝えていければと考えています」と意欲をみせる雅樂川社長。同社の経験や知見がシェアされ、多くの企業の両立支援が進んでいくことを期待したい。

▼エルダー2021年9月号PDFはこちらからダウンロードできます。
https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/q2k4vk0000040kk0-att/q2k4vk0000040kme.pdf

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