【桐生人をたずねて】元禄から続く畳店の継承と開拓

この記事は、ココロ日和2019年夏号に掲載されたものです。

桐生人をたずねて 第10回

 桐生市内で元禄から続く歴史ある畳屋、松屋畳店。
 畳製作技能士一級の資格を持ち、張替・入替作業などを行う傍ら、ブックカバーや名刺入れなどの畳雑貨を製作している店主、11代目の大川智樹さんにお話を伺いました。

300年近く続いているお店、小さい頃から継ぐことを決めていたのでしょうか?

大川さん 最初から継ごうとは決めていませんでした。周りからは継ぐものだと思われていたでしょうが、すんなりは入りたくなかったです。老舗あるあるですね(笑)。高校卒業後、数学を専攻し都内の大学に通いました。その後他の大学に通う選択肢を考えたり、20代はいろいろ葛藤していましたが、今考えると甘えだったと思います。「中途半端な気持ちなら継がなくてもいい・・・・」と言った父の背中が哀愁たっぷりで、これを機に踏ん切りがつきました。

名刺やブックカバーなど、畳雑貨の発想はどこから?

大川さん 雑貨は畳のPR目的で作り始めました。若い人は、畳が擦り切れたり、黒ずんだ汚れが出てきたときに、畳の表と裏でリバーシブルに使えるのを、知らないことが多いです。雑貨の発想はここからです。
 新しい畳の気持ちよさを知ってほしくて、身近に置けるものを考え始めました。地域の催し物に畳表を出して参加していると、五感で畳を感じてもらえ反応も良いです。ミニ畳やブックカバーなど、お客様の声から思いつく雑貨もあります。

creemaでの出店や催し物への参加など、PRの仕方が先進的だと思いましたがいかがでしょうか?

大川さん 畳離れが進んでいるこの頃、ここ17〜18年でい草農家は約半数に減少しています。畳が日本から消えることは無いかもしれませんが、農家がなくなると良いい草を作るノウハウもそこで途絶えてしまう。日本の由緒あるお寺に中国産の畳が入る現実なんて、悲しすぎます。畳業界の今後や、い草の産地を支えたいという気持ちもあり、畳のPR願望がどんどん強くなっていきました。
 職人は、基本下請け根性で、PRをあまり得意としないイメージがありますが、食べていくにはやらないと!と思いました。幸いにも、父もPR活動や雑貨作りに積極的でした。
 当時はスマホも普及しておらず、ネット利用者も少ない状況の中、ホームページは自分でパソコン教室に通いながら作りました。SEO対策なんかもやってましたね。
 畳の継承を考えると、若い世代にアプローチをしたり、地域の催し物に出て畳の良さを知ってもらったり、この積み重ねが将来につながればと思い、やっています。

智樹さんから見た、畳の魅力はなんですか?

大川さん 畳は日本の風土に合った敷物です。い草は、湿度調整をし、空気清浄もします。二酸化窒素を吸収し、害虫の抗菌作用もあります。天然空気清浄機です。森林浴と同じ効果があり、畳の部屋で勉強すると子供の学習能力もアップする。日本の気候に対し柔軟に適用できます。畳文化は日本の宝であり、権利であり、日本に住んでいるのに利用しない手はないと思うんです。
 都内のcreemaなどのイベントに出すと、20代〜30代の若い女性がい草の匂いを嗅いでは、気持ちがいい、懐かしいと話し、雑貨を買っていきます。日本人のDNAが、い草を必要としているんだと感じます。と同時に、「まだいけるな」と思います。

PRに積極的ですが、老舗感をあまり出さない。どうしてですか?

大川さん 商品を認めてくれた方が、ふと気づく。これが美徳じゃないですか。あぐらをかくと終わりですよ。ベンチャーのつもりでやっています。元禄から続く事業に名前を連ねることができるのは光栄なことです。自分も父からバトンを受け継ぎました。僕には息子がいます。彼がこの畳屋を継ぐかはわかりませんが、いざ継ぐとなったときに、今よりも良くして息子に渡したいです。


 智樹さんのお父様も、お祖父様の哀愁を察しお店を継いだ経緯があるそうです。先代10人が築き上げたものを受け継ぎ、歴史を紡いでいく。老舗でありながら、その歴史にあぐらをかかない智樹さんの心意気は雄大で、継承者であり開拓者だと思いました。

松屋畳店
松屋畳店(創業元禄)
群馬県桐生市元宿14-41
TEL/FAX 0277-44-8022
参考 松屋畳店http://www.e-tatamishop.com
Top