自分の力で痰や唾液、鼻汁などを十分に出せない患者さんに、器械を使って出すお手伝いをする「吸引」。呼吸を楽にし、感染症の予防にもなる大切な処置です。しかし、吸引は誰にでも簡単にできるわけではなく、看護師をはじめ、専門的な知識・スキルを学んだ人にしかできません。「訪問している利用者さんに、吸引をしてあげたい。その技術を身に着けたい」そんなCOCO-LOのリハビリスタッフ・齊藤美恵子さん(理学療法士)の意思がきっかけとなり、昨年10月、同社社内で、「吸引勉強会」が開かれました。
取材/阿部奈穂子(オリーブ・アンド・パートナーズ)
ひんぱんに吸引が必要な
Aちゃんのお役に立ちたい
『訪問看護ステーションココロ』に勤務し、利用者さんのお宅を訪問している齊藤さん。「利用者さんやそのご家族と話をすることで、こちらまで元気をもらっています。『ありがとう。来てくれて嬉しいよ』という言葉が励みですね」と言います。しかし、数カ月前から、ある悩みを抱えていました。それは、新しく担当となった幼いAちゃんのこと。「病気のためすぐに痰が絡み、ひんぱんに吸引が必要なのです」と齊藤さん。
吸引は家族や看護師のほか、訪問看護のサービス内であればリハビリ職でも処置が可能とされています。しかし、齊藤さんはこれまで、吸引の経験がほとんどなかったため、自分では処置できず……。訪問中に吸引が必要となった場合、ご家族に声をかけて処置してもらっていたそうです。
「自分のタイミングで吸引をしてあげたかった。また、Aちゃんのご家族は普段、つきっきりで介助しているため、外出するのがとても困難だと聞きました。自分が訪問している間は、ご家族に自由な時間を持ってほしいという思いもありましたね」
チームのメンバーに相談し
勉強会が実現
そこで、齋藤さんは、同じ『訪問看護ステーションココロ』に勤務する看護師・大圖百合子さんに、相談しました。
「吸引のやり方を教えてほしい」と。それと同時に、「自分と同じように、吸引のやり方を知りたいというリハビリスタッフは他にもいるはず」と思った齊藤さん。それを聞いた大圖さんは、訪問看護ステーション全体で「吸引勉強会」を開くことを提案し、その講師を務めることを伝えました。大圖さん自身も、吸引をするために四六時中、利用者さんに寄り添い続ける家族の大変さを思い知っていたそうです。そんな経由で、社内勉強会が実現となりました。
手づくりの模型で
手順やコツを伝授
社内のクラウドを利用し、声をかけたところ、当日は18名のリハビリスタッフが参加。大圖さんは、自分で小児の大きさの模型をつくり、吸引の実習を行いました。その模型とはペットボトルを土台にし、紙粘土で鼻や鼻の穴まで作ったリアルなもの。
吸引の第一歩は「鼻の形状や解剖図を理解すること」です。それを知らないと、吸引器のチューブを気管まで持っていく際に、鼻の粘膜を傷つけてしまう危険性が出てきます。
その結果、「出血し、血が止まりにくくなる。それを防ぐことが最も大切なのです」と大圖さんは言います。
模型を使った実習を見ながら、吸引の手順やチューブの持って行き方を細かく学んだ参加者たち。「指先の使い方など細かいコツを教えてもらえたのはとても有難かった。これで自信を持って、Aちゃんに吸引をしてあげられると思いました」と齊藤さんは話します。そして何よりも、「同じチーム内でこれほど役に立つ勉強会を開催できたことが嬉しかったですね」とニッコリ。
みんなで課題を解決し
成長していく
その後、齊藤さんは、チーム内の看護師に2回ほど訪問に同行してもらい、完ぺきに吸引のやり方をマスターしたと言います。「吸引を覚えたことで、仕事内容の幅が広がりました」と自信にもつながったようです。
COCO-LOではこのような勉強会を月7~10回ほど行っています。内容は、その時、スタッフが抱えている課題に沿ったものや、みんなが知りたいと思うことなど。最近は、口腔ケアや緩和ケア、床ずれについて、爪ケアや呼吸についての勉強会が行われました。今回のようにスタッフが発起人となって開催する勉強会も多いそうです。
みんなで課題を出し合い、みんなで解決し、みんなで成長していく。だからこそ、みんながスピーディーにスキルアップしていくのでしょう。それがCOCO-LOのスタイルなのです。