ココロの理学療法士がソックスエイドを手作りする理由とは?

これからの寒い季節、厚手のソックスは必需品です。でも、股関節やひざ関節の病気や痛みがある人は、思うように脚を曲げることができず、「自分でソックスを履くことができない」という悩みを持つことが多いようです。それを助ける器具が「ソックスエイド」。1000円~3000円ほどで市販されていますが、COCO-LOの理学療法士・高井淳子さんは工夫を重ねて、ソックスエイドを手づくりしました。その理由とは? 高井さんのソックスエイド物語をお話ししましょう。

取材/阿部奈穂子(オリーブ・アンド・パートナーズ)

「靴下一つ、自分で履けない」
切ない想いを耳にして――

ポジティブで社交的な理学療法士・高井さんは、「訪問看護ステーションココロまえばし」に所属し、訪問看護の仕事をしています。

訪問看護師テーションココロまえばし
理学療法士

 高井さんがソックスエイドを手づくりするようになったのは、利用者のBさん(70歳代・女性)の影響でした。これまで普通に歩き、普通に家事をこなしていたBさんが、股関節の激痛を訴えたのは2018年5月のこと。様々な治療をしても痛みは治まらず、彼女は車イス生活を余儀なくされました。
 そして、2018年9月から高井さんがBさん宅へ訪問看護に伺うようになったのです。「私が初めてお会いしたとき、Bさんは失意のどん底で、言葉は少なく、ましてや笑うことなどまったくありませんでした」と振り返ります。彼女はご主人と娘さんの3人暮らし。家事全般はもちろんのこと、自分の身の回りのこともご主人と娘さんに頼らなければ生活できない、という状況がつらくて仕方がなかったのでしょう。
 それでも週に1度の割合で、Bさん宅を訪れ、リハビリをするうちに、少しずつBさんは自分のことを話し始めてくれました。その中で、高井さんの胸を打ったのは、「靴下一つ、自分で履けないんだよ。夫に履かせてもらうんだよ」というBさんの悲痛な言葉でした。
 「同じ女性として、その切なさが痛いほど理解できた」という高井さん。Bさんが自分で靴下を履けるように、Bさんのためのソックスエイドを手づくりしようと決めました。市販のソックスエイドの購入を勧めることも考えましたが、「利用者さんの中には、新たに器具を買うことに抵抗を示す人が多いのです。そこまでしたくないと。でも、私が手づくりしたものなら、気軽に使ってもらえるのではないかと思ったのです」と話します。また、「1つでもできることが生まれれば、それが自立への第一歩になるのでは」という想いもありました。

 

下敷きで失敗
新たな素材探しの日々

 市販のソックスエイドはプラスチック製の板のような本体に紐がついています。その板に靴下をかぶせてから、中心部分に足を入れて、紐を引っ張れば、靴下が履けるという仕組みです。
「これならプラスチックの下敷きで代用できる!」と考えた高井さん。近所の100円均一ショップに行き、柔らかめと硬め、2種類の下敷きを購入してきました。市販品を参考に、下敷きをひょうたん型に切り、先端部分に二か所、パンチングで穴を空けて、自宅にあったリボンを通し、即席ソックスエイドの出来上がりです。
「自分で実験してみたところ、大成功。うまく靴下を履くことができました。早速、Bさんにお届けしたのです」。ところが、Bさんが試してみると、靴下が板からするりと抜けてしまい、なかなか、かかとまでたどりつかないのです。おまけに、硬めの下敷きでつくったソックスエイドは途中でパキッと折れてしまいました。
「Oさんの靴下は私の靴下よりも厚くてすべりやすい。もっと密着度が高く、もっと柔らかい素材でないとダメなんだ」と思い知った高井さん。下敷きに代わる素材はないか――、探し回っていたときに、同じ訪問看護師テーションココロの作業療法士・鈴木佳奈恵さんから、「100均で売っているまな板シートを使ってみたらどう?」とアドバイスを受けました。聞けば、鈴木さんも同じような課題に遭遇し、独自にソックスエイドを研究している最中だとか。

 

あんなに素敵な笑顔は
訪問を開始して初めて

 1週間後、高井さんはまな板シートでつくった改良型ソックスエイドを持って、Bさん宅を訪れました。そこで、高井さんはBさんから思わぬ言葉を聞くことになります。「この一週間、主人と一緒にソックスエイドを使う練習をしていたのよ」。高井さんが先週、置いていった柔らかめの下敷きでつくったソックスエイドが大活躍していたようなのです。「でも、やっぱりダメだったわ」と言いながらもBさんの顔には充実した表情が浮かんでいます。何かに打ち込むことがBさんにとって良い刺激になったのかもしれません。しかも、高井さんがわざわざ自分のために手づくりしてくれたものだから無駄にはできないという想いがあったのでしょう。これが市販品だったら、多分、お蔵入りでした。
 「まな板シートで新しいソックスエイドをつくってみました。これで試してみてください」。そういって差し出した改良型ソックスエイドを使ったところ、Bさんは見事に一人で靴下を履くことができました。「あんなに素敵なBさんの笑顔を見ることができたのは、訪問を開始して初めて」と高井さんは言います。
 今は何でも買えば手に入る時代です。でも、「工夫しながら、その方のために手づくりしていくのが訪問看護の原点」、手づくりのソックスエイドが高井さんにそう再認識させてくれたそうです。

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