【桐生人をたずねて】織物から生き方を学ぶ

この記事は、ココロ日和2018年冬号に掲載されたものです。

桐生人をたずねて 第4回

今回は、桐生で4代にも続く機屋、井清(いのきよ)織物を経営するご夫婦、井上義浩さんと井上忍さんにお話を伺いました。伝統の帯作りを守りつつ、生活雑貨を織りで制作するブランド「OLN(おるん)」を立ち上げ、桐生市内はもちろん都内の展示会でもご活躍をされています。

お二人とも、群馬から一度都内に上京していますが、桐生に帰り機屋を継いだ理由はなんでしょうか?

今の自分だったら役に立てると思い、帰ってきました。

義浩さん 東京でTVの制作関係の仕事をしていました。自分は会社員には向いていないと思っていたので、3年勤めてフリーになる覚悟でやっていました。

忍さん 都内で洋アパレルの企画・デザインをしていました。自分が目指していたものに近づいていた実感はありましたが、結婚を考える年齢になり、当時の生活に疑問を感じていました。東京は憧れの場所でしたが、結婚や家庭のことを考えると違和感がありました。

義浩さん 父はたまに、機屋を「継がないか?」と言うことがありましたが、僕自身子供の頃からそういう意識はありませんでした。父が仕事の話をだんだんしなくなり、困っていることを察しました。「 今の自分だったら役に立てる」という自信もあり、思い切って帰ってきました。

 

OLNというブランドを立ち上げた理由はなんでしょうか?

糸・柄・織りと向き合い、この過程を大切に守れる織物を作ろうと思いました。

義浩さん まずは帯で1人前になろうと思いました。「帯が売れないから雑貨を作る」とは思われたくありませんでした。着物を着る方や商売をしている方を相手に仕事をしていましたが、そのうち自分達の作っているものを良いと言ってくれる方が増えてきました。糸・柄・織りと向き合い一から考え、余計な装飾を入れない、嘘偽りなく純度高い織物を作ろうと思いました。

忍さん 織りを勉強しているうちに、帯を仕立てるにも一つ一つの過程が大切で重要であることがわかりました。糸、染め、縦糸、たくさんの方の仕事が積み重なった後にうちで製織を行います。こういった過程を大切にしたい、過程を大切に守れる商品にしたいと思いました。

織物の魅力はなんですか?

織物は、ごまかせない。ズルできない。織物から生き方を学んでいます。

義浩さん 織物は、妥協した、安い材料を使った、といった事実をごまかすことができません。効率を良くしたくてもできるものでもありません。ズルができないのです。無駄な行程なんてありませんし、遠回りだけどそれが近道だと思っています。

忍さん 織物をしていると、今いる環境の中で、今ある物の中で、できることをちゃんとやろうと思うのです。自分達の育児や食、生活の中にもその考えが反映されている気がします。織物業をずっと続けていくためにも、後悔しないためにも日々勉強です。今なら技術について教えてくれる方々がいます。

義浩さん 繊維の仕事は分業あってなので、誰かがいなくなっては困ります。技術は機械が持っているものではなく、人が持っているものです。遅かれ早かれ自分たちが身に付けるものだと思っています。「2人だけになってもできるようになろう」と妻と話しています。


東京で培ってきたものが桐生でも生かされているように思いますが、「織物を一から学んでいた時に比べると、東京で学んだことは、〝根性〟くらいです。(笑)」と話す井上さんご夫妻。夫婦だけど、戦友、一番の理解者とお互いについても話し、お二人の強い絆を感じました。

参考 井清織物www.inokiyo.com
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